補助事業番号 24-83
補助事業名 平成24年度 (研究補助)In−Handケージング操作の研究開発補助事業
補助事業者名 横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 前田雄介
1 補助事業の概要
(1)事業の目的
昨今の超円高を背景に,製造業における日本の空洞化の懸念がいっそう高まっている.賃金コストの差を克服し競争力を維持するためには徹底した自動化の推進が一つの方策であるが,現状のロボットでは限られた分野でしか人間を代替することができない.その理由の一つは,ロボットの器用さの欠如である.実用的に用いられているハンドは極めて単純なもので人間の手とは比較にならない.また,人間の手を模した複雑なハンドも開発されているが,それを使った物体操作技術の水準が十分でなく,機能的にもコスト的にも実用化に向けて多くの課題がある.人間の代替をさらに推し進め自動化を推進するためには,ロボットが人間と同等あるいはそれ以上の器用さを持ち,多様な作業を遂行可能にすることが必要である.そのために,低コストなロボットハンドを用いて,器用な物体操作をロバストかつ高速に行えるようになることが望ましい.
人間は手の中で把持している物体の位置・姿勢を変化させたり,持ちかえを行ったりすることができる.このような操作をIn−Hand操作と呼ぶ.ロボットによってIn−Hand操作を行った研究は過去にも多数あるが,多くのセンサを必要とし低速な操作しかできないなど,コスト面・速度面で大きな問題があった.本補助事業では,「In−Handケージング操作」という新しい手法を用いることで,位置制御の低コストロボットにより,高速なIn−Hand操作を実現することを目指した.
(2)実施内容
In−Handケージング操作の研究開発
ロボットハンドによる物体操作において,対象物を幾何学的に拘束する「ケージング」の状態を保ったままで,ハンドの中で物体を操る「In−Handケージング操作」の研究開発を行った.この手法では,ケージングの状態を保ちつつ,ケージングの形態を変化させていくことで,物体の存在できる範囲を変えていき,最終的に目的の位置まで移動させる.位置制御によって操りを行うことができ,力センシングや力制御が不要であるため,低コストに多様な操作が行えるようになると期待できる.具体的には,位置制御によってIn−Handケージング操作を実現するための条件を理論的に導出した.また,この条件を用いて,二次元空間内で,操りに必要なロボットハンドの動作を自動生成するアルゴリズムを考案し,動作計画プログラムとして実装した.また,二次元および三次元のIn−Handケージング操作用のプロトタイプロボットハンドを製作し,これらを用いた実機実験によって,In−Handケージング操作の実現性,および,導出した理論的条件や動作計画プログラムの妥当性を確認した.実機実験の様子を図1,図2に示す.また,Jamming(詰まり)などの実用化に向けて予想される課題についても回避策を実機を用いて検討し,Jammingの起こりにくい動作生成を行うように動作計画プログラムを改良した.
図1 二次元In−Handケージング操作の様子 図2 三次元In−Handケージング操作の様子
2 予想される事業実施効果
人間の手を模した高機能なロボットハンドの開発も行われているが,複雑かつ高コストである.一方,In−Handケージング操作は,安価なロボットハンドで様々な物体操作を行うことを可能とする技術である.今回の技術的基盤の確立により,低コストに器用な物体操作を行う手法として,ロボットによる物体ハンドリングへの応用と実用化へ向けた取り組みが期待される.
3 本事業により作成した印刷物等
In-Handケージング操作の研究開発成果報告書概略版
(http://www.iir.me.ynu.ac.jp/~maeda/misc/JKA/report-JKA.pdf)
In-Handケージング操作の研究開発成果報告書
In-Handケージングマニピュレーション用二次元プロトタイプハンド
設置場所 横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 前田研究室
In-Handケージングマニピュレーションの実験的検証を行うために,安価なコマンド方式サーボモータを利用した,2指4関節のプロトタイプロボットハンドを開発した.これを用いて,二次元平面内での物体の操りに関して,位置制御によるIn-Handケージングマニピュレーションが可能であることを確認した.
In-Handケージングマニピュレーション用三次元プロトタイプハンド
設置場所 横浜国立大学 大学院工学研究院 システムの創生部門 前田研究室
三次元的なIn-Handケージングマニピュレーションの実験的検証を行うために,同じくコマンド方式サーボモータを利用した,4指12関節のプロトタイプロボットハンドを開発した.このハンドは6軸垂直多関節型の産業用ロボットに装着されている.これを用いて,三次元空間内におけるIn-Handケージングマニピュレーションが可能であることを確認した.