(注)下記の内容はたいへん古いのでご注意下さい.
Word で論文を書くには
前田 雄介
<はじめに>
この文書は,MS-Word 7.0 (Word95) で,大学の卒業論文のような大きな
文書を書くためのノウハウを集めたものです.OS としては Windows95 を
想定しています.内容はもちろん無保証ですが,誤り等がありましたら,
筆者までご連絡ください.
Word で書く理由があるか?
学術的な文書を書くときの,世の中の標準は TeX です.環境が整備されて
いるなら,TeX にしては? Word の WYSWYG なところや OLE で何でも
貼り付けられるところは一見お手軽なのですが,快適な原稿書きのためには
相当なマシンパワーを必要としますし,原因の定かでないトラブルに悩まされる
こともままあります.それなりの覚悟をもって臨んだ方がよいかと思います.
文書を書く上での必須条件
- 十分強力なマシン.特に,大量のメモリと速いハードディスクが必要です.
私の修士論文の場合(トータルでファイルの大きさ 6MB くらい),Pentium 133MHz +
メモリ 64MB のマシンで,マスター文書を開くのに約50秒,保存するのに約3分
かかりました.
- 十分強靭な精神.原因不明のトラブルに遭っても平静に対処法(もしあれば)を
考え出さなければなりません.
トラブル回避の基本
最もよくあるトラブルは,メモリ不足を訴えて作業ができなくなってしまうこと
です.Word 6.0 on Windows3.1 に比べると,Word 7.0 on Windows95 は
だいぶ安定した感がありますが,それでもまだまだな面があります.(Windows NT に
すると改善されるのでしょうか?)
挙動が怪しくなった場合は,ファイルを別の名前でセーブして(上書きするのは
ちょっと怖い),Windows を再起動することをお勧めします.ただこの「メモリ不足」,
物理メモリや仮想メモリが余っていても起こる,ような気がします.いわゆるシステム
リソースというやつなのでしょうか.
<文書の作成>
テンプレートを作る
大きな文書を作る前には,それ用のテンプレートを作るとよいでしょう.
テンプレートにはスタイルやマクロ,ツールバーの
内容などを定義できるので,複数の文書のフォーマットを統一するのに便利です.
章番号の形式もテンプレートの中で設定することができます.「ファイル」メニューの
テンプレートの中の,「文書スタイルを自動的に更新」のチェックを適当にオンオフする
ことになるでしょう.
スタイルを作る
文章の内容に応じて,スタイルを(テンプレートの中で)定義しておくと便利です.
例えば,参考文献の部分を小さいフォントにするとか,謝辞の部分は行間を詰めるとか
いう場合に,個々の段落書式を変えるのではなく,スタイルで表現しておくとスマートです.
私の場合は,標準のスタイルは行間を固定ピッチにし,数式のところだけ行間を最小ピッチに
したスタイルを使っています.
章番号を入れる
Word の章番号機能を使えばよいでしょう.ただし,見出しとして設定された部分には
すべて章番号が振られてしまいます.
目次を入れる
Word の目次機能を使えばよいでしょう.ただし,見出しとして設定されていない部分には
目次は作られないので,ブックマークとクロスリファレンスを使って,手動で作ることに
なります.その場合,スタイルを「目次1」などに設定してやればよろしいと思います.
見出しが2行に渡るとき,変なところで改行されると美しくないので,段落内の
強制改行(SHIFT+RETURN)を入れることがあるかと思いますが,そうすると目次など
クロスリファレンスしている部分で,空白が入ってしまいます.あちゃら語なら問題の
ない仕様ですが….
表紙や章の扉の設定
表紙や章の扉のページを四角い枠で囲むには,ページ罫線機能を使います.
ただこの機能,マクロで実現されているのか,かなりとろいです.
またページ番号などのヘッダー/フッターの設定と干渉したりすることがあるので
注意が必要です.
また,表裏を使って印刷する場合は,章の扉を奇数ページに持ってきたい,ということ
がありますが,その場合は「奇数ページから開始」のセクション区切りを入れておきます.
ページ番号を入れる
Word のページ番号機能を使います.ヘッダー/フッターはセクションごとに
管理されているので,
セクションごとにうまく設定すれば,表紙・目次・章の扉にはページ番号を入れないとか,
1章の最初を第1ページにする,といったことができます.
数式を書く
数式はまあ数式エディタで書くことになるでしょう.ショートカットを覚えると
入力がかなり速くなります.CTRL-B(行列・ベクトル),CTRL-G(ギリシア文字),
CTRL-H(上付き),CTRL-L(下付き)などなど.
数式を書く上で問題となるのが,数式の文字サイズです.
個々の数式にはサイズ定義は記憶されていないので,
その数式を開いたとたん,現在のサイズ定義が反映されてしまいます.
そのため,数式エディタのサイズ定義を書き換えて,下付き文字などの大きさを
すべて「標準」の文字の大きさに対する相対 % で指定しておくのが便利です.
これによって,「標準」のサイズ定義を変更するだけで,数式全体の
文字サイズを変更できます.
数式を配置する
数式はふつう行の真ん中に置きたいものです.また,式番は行の右端に置きたいものです.
私はタブを使っています.つまり,中央揃えのタブを行の真ん中に,右揃えのタブを行の最後に
配置しています(スタイルで設定してあります).これで TAB キーで必要な位置に飛ばせる
わけです.ただし余白が変わったときに設定し直さなければならないのが欠点です.私の
数式用のスタイルでは,行間を最小ピッチにするとともに,段落前と段落後のスペースを
少しとってあります.
独立した行とせず,文中に数式を入れたいこともありますが,行間を固定ピッチにして
いると,ちょっと数式が大きいと上下が欠けてしまいます.これは納得いかない仕様なので
何とかしてもらいたいものです.
図・数式に番号を入れる
図番には,Word の図表番号機能を使えばよいでしょう.ただし,式番を振るのに使うには
何かと不都合があるので,(x.y)の形式で式番を入力するための簡単なマクロを作りました.
次のマクロは,式番を初期化するフィールドを挿入します.各章の頭で1回実行しておきます.
Sub MAIN
InsertField .Field = "SEQ eq \h \r 0 \* MERGEFORMAT"
End Sub
次のマクロが,実際に式番を挿入するマクロです.
ツールバーに登録しておくと,ボタン一発で式番が挿入できます.
Sub MAIN
Insert "("
InsertField .Field = "STYLEREF 1 \n"
Insert "."
InsertField .Field = "SEQ eq"
Insert ")"
End Sub
フィールド機能を使っているので,適宜更新してやる(フィールドを右クリックして
更新を選ぶ)必要があります.
ブックマーク・クロスリファレンスを使う
見出しや,図表番号を振った部分や,ブックマークを設定した部分は,
クロスリファレンス機能で参照することができます.こうしておけば,図番や
式番が変更になっても,フィールドの更新一発で OK なわけです.参考文献名だとか,
前述の方法で振った式番にはブックマークを設定しておくとよいかと思います.
レイアウト枠を使う
図やグラフなどは,レイアウト枠で囲んで配置するのがよいかと思います.
ただ,レイアウト枠で囲まれた部分が完全に地の文から独立だといいのですが,
そうはなっていません.そのためいろいろと不都合が起こります.例えば,
レイアウト枠が所属している段落のページに,そのレイアウト枠が入りきらない
場合,次のページに移動します.これはいいのですが,それに続く地の文も移動して
しまうので,前のページにぽっかり空白が空いてしまいます.この問題の
うまい解決法があったら教えてください.
PS/EPS を挿入する
PostScript の図を挿入するには,付属の PS インポートフィルタを使用すれば
よいのですが,プレビューがついてないと扱いが不便です.Windows 用の Ghostscript
+ GSview を使うと,PS から EPS への変換や,プレビューの付加が簡単にできて
便利です.プレビューの形式としては,TIFF 6 packbits にしておくとファイルが
あまり大きくならないのでよいと思います.
それから,どうも Word は EPS のクリッピングをちゃんとやってくれない
ようです.ですから,BoundingBox をいじるのはダメで,全体を挿入しておいて
トリミングをしなければならないようです.
ファイルを分割して扱う
マスター文書の機能を使うと,大きな文書をサブ文書に分割して扱うことができます.
卒論なんかだと,章ごとに別々のファイルを作るようにすると,軽くなってよいでしょう.
が,印刷するときなどは結局ファイル全部を開くわけで,それだけのでかい
データを扱う覚悟が必要です.
マスター文書に関連していくつか注意すべき点があります.一つはクロスリファレンスの
問題です.サブ文書を開くと,勝手にフィールドの更新が行われるので,別の文書を示した
クロスリファレンスはエラーとなります.まあそれは当たり前でしょうが,そのエラーが
ボールドで表示される結果,次にマスター文書を開いてフィールドを更新したときの結果も
ボールドになってしまいます.対処法としては,マスター文書で1個1個直す(検索で太字の
書式のところだけを探すと楽)か,サブ文書を開いた直後に undo をして,サブ文書内でその
クロスリファレンスの更新をしないようにすれば何とかなります.フィールドを書き換える手も
あるかもしれませんが,僕にはよく分かりません.
<おわりに>
私が Word に初めて触ったのは,Windows3.1 用の ver. 1.2A でした.
その当時,40,000 円くらい払った覚えがあるので(当時はアカデミック
価格などはなかった),今売られているWord (と言うかパソコン用ワープロ
ソフト)の安さを見ると隔世の感があります.が,ソフトウェアとしての
質はまだまだのような.使い込んでいくとバグをつつき出してしまうことが
あります.マイクロソフトには,バージョンアップに際してはバグフィックスにも
もっと力を入れてもらいたいものです.